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わかむらさき

わか紫

泉 鏡花

「新小説 第十年第一卷」1905(明治38)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,708 字 · 75 页

青空文庫

」

「はい。」と猶予らわず答えたのである。

夫人はやや言急に、

「じゃあ、お前、盗賊が好なの、悪いこととは思わないの。」

「いいえ、盗賊することも、する人もいけませんけれど、だって、あの方なんですもの。そしてもう、もう私、おかみさんになりました。」

と、身の置所なさそうに、この時ばかりはおろおろして、

「もう他に、他にお嫁入する処はないんですって。」

「誰が、誰がそういいます。」

「おじいさん。」

「おじいさん、お前には御両親、おとっさんもおっかさんもないのだってね、おじいさんは何なの、その人が盗賊だってことを知らないのかい。」

「はじめは存じませんでした。はじめての晩、内へ泊りに見えました時は、どこのかお邸の、若様だとそう思っていたんですって。」

「まあ、泊りに行ったのかねえ、ここに、書いてあるのがそうだね。」

先刻から目に留ったは、それ、ひらがなの走りがき、鉛筆で美しく=晩に=と一行。行を分けて=お前=と書き、=の許へ=とまた項を別に=泊りに行くよ=と記してある。

「どこで、こんなことをいわれたの。」

「この二階なの。あの、山路でこれを貰いましてから、私大事にして首へかけて、お、お乳の下へかくしていたの。