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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

山葡萄の古酒から始まって、出る料理がみな変っているのに、半之助はおどろいた。

鮎の若竹蒸し、というのは、今年竹のひと節を割り、その中へ鮎をまるのまま入れ、あけび蔓で巻いたのを、外から藁火で蒸し焼きにする、のだそうである。

それから、聞いたことのない、山菜の浸しものや、岩魚の田楽などが出、次に焼いた肉の皿が出た。

「これはおれも初めてだぞ」

主馬がひらきなおって云うと、女の一人がなかば自慢、なかばきみが悪そうに、「鹿の肉でございます」と云った。

「冗談じゃない、いまじぶん鹿の肉が食えるものか」

「いいえ、冬に獲った若鹿の肉を、雪詰めにして置くのだそうでございます、召上ってみて下さいませ、みなさんたいへん珍重だと仰しゃいますわ」

「仰しゃるかね」

主馬は軽口を云いながら、箸をつけた。

半之助も喰べてみた。焦げめのついた肉に、なにか果物を潰したような、甘酸っぱい、どろっとした汁が掛けてある。雪詰めにしたというが、塩も振ってあるのだろう、かなり塩がきいているが、肉の味は、比較するもののない、こうばしい匂いと、こまかな味をもっていた。女中の説明によれば、それは野猪の脂を、鉄鍋に溶かして、その熱で煎り焼きにしたのだという。