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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页
二
若者たちが一人ずつ、交代で挨拶に来た。挨拶といっても、かれらは廊下に平伏して、大夫さま、とひと言いうだけだし、こちらは、吉兵衛か、とか、武次か、とか、ただ名を呼ぶだけである。それは一定の、格式をもった作法らしいが、しかも、その簡単な呼びかけには、一般の武家にみられるものとは違って、つくらない純朴さがこもっていた。
「もういちど伺って呉れ」
権之丞はまもなく催促した。
こんども、待て、ということであった。そして三度めには、大事な用談をしているから、知らせるまで取次ぎはならぬ。といわれた。すると権之丞は、「客は武家か」ときいて、立ちあがった。
「よろしい、押しておめどおりをしよう、案内して呉れ」
そして、さっさと廊下へ出ていった。
二
そこは、母屋から渡り廊下を架けた、別棟の建物で、床が高く、広縁には勾欄がまわしてあり、妻戸や蔀などもみえるし、廂には青銅の燈籠が吊ってあった。これは泉殿ふうの造りで、当時は門ひとつにも階級上のやかましい規則があったから、正式にいうと、建築法に触れるわけである。
縁側へあがると、書院窓のある十帖ばかりの座敷に、障子をあけ放して、女あるじの登世が、一人の侍と対談していた。