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やまうらきよまろ
山浦清麿
吉川 英治
「講談倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,573 字 · 91 页
『おおーい。おおいっ……待てようっ』
誰か、後から追いかけて来る者がある。編笠を被って、干飯袋に旅の持物を入れ、短い義経袴の袴腰にくくり付けている若者だった。
町の辻で、若者は環に追いついた。
後から肩を掴んで、
『待てと云ったら。――聾か、貴様は』
『何!』
気が立っているので、環も、きらっと眼を研いで振向くと、編笠の中の顔は、自分よりもっと若い――まだやっと十七、八歳かと思われる少年武士なのであった。
が――年上の環よりは、どこか沈着で、大人びている口吻であり、態度も鷹揚に、
『何を怒るのか。わしは貴様に好意を持って、わざわざ追いかけて来た者だぞ』
『怒ったわけではないが、つい、気の紊れていた矢先なので』
『そんな事で何うする』と年下のくせに、少年はそう窘めて、
『長国寺の刀試し――どんなものかと、わしも見ていたのだが――貴様はうまうまと、箕兵衛直胤の手に乗ったのだ』
『えっ、ど、どうして?』
『二度目だ。――あの時、貴様が最初に気合をこめた儘、やってしまえば、古兜の鉢金ぐらい、きっと斬れていたに違いない。老獪な相手方は、その鋭い気を抜くため、わざと待てと声をかけ、何の必要もないのに、兜の位置を少し直したりしたのだ』