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やまうらきよまろ
山浦清麿
吉川 英治
「講談倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,573 字 · 91 页
(よもや?)
と、兄の真雄も、母のお菅も、強いて心で打ち消していると、環は、或る夜そっと、裏口から生れた家へ帰って来た。
そして、裏の納屋で、長いこと母と密々話した揚句、彼の母は涙ながら、真雄の所へ来て、その気持を訴えたが、
(家へ入れるわけには行きますまい)
と、真雄は、養子先へ義理を立てて、肯かなかった。
元々、環と、養子先の娘とは、尋常な縁組ではなく、若い彼と彼女との、恋の始末を、強いてそこに正式化して落着けたものであった。
それまでにするには、仲へ入った人々にも、娘の親、親類にも、悲嘆や苦労を随分とかけさせている。曲げられない旧弊の家憲や、困難な事情も、どちらも可愛いい一人娘と、息子の為にと、曲げさせた上、やっと纒った両家の縁組なのだった。
それはまだいいとしても――。
環が、家出したなら、では生家へ入れようとは、何うしても真雄として云えない理由が、もひとつある。
環の妻には、もうこの春、生れたばかりの子があるのである。
その子を捨て――又、飽きも飽かれもせぬ恋妻を捨てて――何で環は養子先を飛び出してしまったか。
弟のその気持を考えると、真雄としては、涙があふれてくる。