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やまうらきよまろ

山浦清麿

吉川 英治

「講談倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,573 字 · 91 页

青空文庫

三

『……馬鹿です、彼弟は』

『な、なにをいうのじゃ』と、お菅は、懐中の乳呑みでも庇うように、又、母性の聖厳を、髪の毛に逆だてて、叱咤するかのように、

『それへ、坐りなされ! ……真雄っ、坐りなされっ』

『なんですか』

『何といやった。――そなたは、弟の罰が中たるとは、思いませぬか』

『思いませぬ』

母が、本能の愛に、乱れれば乱れるほど、真雄は冷静になって、鍛冶土間の大地へ畏まったまま、冷ややかな面でそう答えた。

三

『ようまあ。兄の身が、そのような無慈悲な言葉を』

お菅は、声を励ましたが、子の冷然として、強い顔を見ると、すぐ気も挫けて、むしろその不機嫌を取做し加減に、

『そなたに、環の心が、解けぬ筈はないじゃろが、よう聞いて賜も、……環はな、もいちど、兄の片腕になって、其方を松代の直胤にも勝る刀工にしてみせると云うのじゃぞ。……御先祖山浦常陸介様以来の家名を、踏みにじられて、それを雪がいで措こうかと、健気にも、念じているのじゃ』

『おっ母さん』

『なんじゃ』

『あなたは、環を、何処の子だと思っているんですか』

『此身が生んだ子。何をいうのじゃ』

『さ。――それが大きな間違いです。