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やまうらきよまろ

山浦清麿

吉川 英治

「講談倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,573 字 · 91 页

青空文庫

(たとえ、十年先、二十年先に、一人前の剣工となって、詫びをするにしても、その長い月日の間)

と、恩人の惨心を思うと、居ても起っても、いられない。

ひょっとして、嘉兵衛が、その消息でも、赤岩村に残してある、老母の所へ便りでもしたら、母は嘆きのため、寿命をちぢめるかもしれない。

『そうだ……せめてこの気持を……柘植様だけにでも、洩らして去ろう』

冷たい秋の夕霧が、そう呟いてゆく、彼の面を吹いた。

千曲の水に添って、彼は、野を歩いた、河原を歩いた。

そして、故郷の山へ、辛い顔を反向けながら、もう一度と、眼をつぶる心地で、松代の城下に近い、川中島の小島村まで来た。

そこの満照寺には、知っている坊さんがある。七日ばかりの逗留をたのみ、身を潜めて、柘植嘉兵衛へ宛て、自分の心を披瀝した審さな手紙を認めた。

『浄明さん。誰方か、この手紙を持って、御城下まで、お使に行ってくれる人はありませんかな』

『子供でよう分るお使ですか』

『ええ、お小僧で結構です。ただ、名宛の柘植様は、先頃、別所でお見かけしましたから、ひょっとしたら、お留守かもしれません。そしたら御新造様へお渡しして、よくお願いしておいてもらいたいので』