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かげおとこ
影男
江戸川 乱歩
「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页
首のまわりを、スカートのすそが、石地蔵のよだれかけのように取り巻いていた。首だけの女は、もうわめいていなかった。断末魔の恐怖に、目は眼窩を飛び出し、ほおはどろによごれていた。それが血にまみれているのかと錯覚された。年増女も、さすがに顔をそむけていた。殺人会社の女重役も、この苦悶を正視するに耐えない様子であった。
徐々に、徐々に、口、鼻、目と沈んでいった。目が沈むときが最も恐ろしかった。毛利氏は思わず双眼鏡をはなして、ため息ともうなりともつかぬ声を出した。かれはもう激しく後悔していたのだ。いまさらどうにもできないことを、底なし沼に沈みつつある女と同じほど恐怖していたのだ。
もう髪の毛も隠れ、さし上げた両手だけが残っていた。それが白い二匹の動物のように、地上にもがいていた。凄惨な踊りを踊っていた。
だが、その両手さえも、一センチずつ、一センチずつ隠れていって、最後に、何かをつかもうとする手首だけが地上に残り、五本の足のカニのように、どろの上をはいまわっていたが、それすら、ぼかすようにどろの中に消えていった。しばらくは、砂まじりのどろの表面がブクブクとあわだっていたが、やがて、それも、なにごともなかったように静まり返ってしまった。