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かげおとこ
影男
江戸川 乱歩
「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页
おとめたちはにこやかに笑うばかりで、ひとことも口をきかなかった。影男もわざとものをいわなかった。しかし、お互いにじゅうぶん用は足りたのである。
「人界のことばを忘れさせ、人界のあかを落とし、人界の衣服もとりかえて、これから地底の別世界の住人となるのだな。この段どりはなかなかよろしい。気に入った。このぶんだと、この世界の設計者は、よっぽど気のきいたやつにちがいない」
すっかり悦にいって浴場を出た。すると、かれのうしろで、岩のとびらがぴったりしまり、ふたりのおとめはその中に隠れてしまった。かれは岩をひらくすべを知らないので、そのままもとのどうくつを、入り口と反対の方角へ歩いていくほかはなかった。
行くにしたがって洞窟の幅は狭くなり、天井は低くなって、やっと人間ひとり通れるほどのトンネルに変わってきた。照明もだんだん薄暗くなり、ついにはまったくのくらやみにとざされてしまった。しかし、影男は引っ返さなかった。これもこの世界の設計者の計算された巧知にちがいないと思ったからだ。
その細い暗い道をしばらく行くと、ついに行きどまりになってしまった。あたりは真のやみであった。