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かげおとこ
影男
江戸川 乱歩
「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页
ヘビがその上を通りすぎるとき、巨大な人花は、五対の桃色の足をキューッと上にあげ、腰のところで二つに折れるほど曲げて、花がつぼんだ形になった。ネムの木の葉がつぼむように、あるいは虫取りスミレがつぼむように、外部の刺激に反応したのである。それを上から見ると、十本の足の先が、五つの顔を隠して中心に集まり、五つのハート形のおしりが外輪となった桃色のつぼみの花であった。
ヘビが底のほうへ下っていくにつれて、そちらの人花も、同じつぼみの形になったが、やがて、ヘビが底深くやみの中へ姿を消すころには、つぼんだ人花が、もとのとおりに、パッと大きくひらくのであった。
影男は、二匹の人魚の手をはなれて、にこやかな五つの顔の花粉を慕う黒いミツバチの姿で、その人花の中心に向かってスーッと進んでいった。
透明マスクの五つの顔は、赤いくちびると白い歯で花のように笑っていた。だが、その笑いが獲物を毒手におとしいれる誘惑であった。かれが五つの顔に近づくと、美女たちの十本の腕がヒトデの足のように伸びて、黒ビロードのからだを、四方からがんじがらめに捕えてしまった。そして、五対の足がキューッとつぼんで、かれのからだを花弁の中に包みこんでしまった。