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かげおとこ
影男
江戸川 乱歩
「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页
血笑記
女体の熱気と、脂粉と、芳香と、甘い触感の底へ、深く深く吸いこまれていった。
そのとき、全山をゆるがして、おそろしいどよめきが起こった。幾千幾万の女体が、声をそろえて、なまめかしく笑いだしたのだ。赤いくちびるの嬌笑が大合唱となって、峰から峰へとこだまし、全世界が途方もない笑いのうず巻きに包まれていった。
血笑記
影男は、ふたたび失神したのであろう。それからいくときが経過したのか、ふと目ざめると、そこにまた別の次元があった。別の夢の国があった。
そこは逢魔が時の薄やみの国であった。女体山脈のつづきかと思われたが、必ずしもそうではなかった。かれはそのとき、柔らかくて暖かいスロープに、足を投げ出してよりかかっていた。それはアームチェアでもソファーでもなく、なにかえたいの知れぬ巨大なクッションであった。
かれは立ち上がって、自分がもたれていたものを観察した。白い巨大な曲線が、うねっていた。急には、それがどういう形だか見当もつかなかった。それは一つの大きなへやのように感じられたが、天井も、壁も、床もなく、それらのことごとくが、不思議な曲線と曲面におおわれていた。