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かげおとこ
影男
江戸川 乱歩
「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页
かれはぴったり身についた黒ビロードのバレリーナの軽快な姿で女体の上に立ちあがり、女体のスロープを山頂に向かってのぼりはじめた。
足の下には、すべっこく柔らかい無数の曲面が連なっていた。乳ぶさがふるえ、おしりがゆがみ、もものあいだにあやうく足がすべり、美しいほおや鼻さえも踏みつけたが、女体どもは痛さをこらえて沈黙していた。叫び声をたてるものはひとりもなかった。
女体の数にして五、六人も登ったとき、予期せぬ異変が起こった。二つの女体が、ちょっと身動きしたかと思うと、そのあいだに細いみぞができ、かれの両足がそのみぞの中にはまった。それと同時に、その辺一体の女体がぐらぐらとゆれて、みぞはいよいよ大きく口をひらき、アッと思うまに、かれのからだは人肉の底なし沼に没していった。
女体の下に女体が、幾層にも重なり合っていた。下敷きの女体の苦しさが思いやられた。その女体のうずの暗い裂けめへ、影男の全身が徐々に沈んでいくのだ。前後、左右、上下のあらゆる面に、すべっこくて柔らかい曲面が連なっていた。男の黒ビロードのからだは、それらの曲面におしつぶされながら、底知れぬ深みへと吸いこまれていった。