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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

それほど狂暴な踊りにもかかわらず、男も女もうれしそうに笑っていた。傷つけ、傷つけられることが、かれらにとっては最上の歓喜ででもあるように見えた。嬉々として逃げ走り、追いすがり、重なってころがり、抱き合って転々し、しかし、身動きのたびごとに、ふたりの傷はますますふえていった。

もはや、顔もからだも一面の鮮血にぬれて、ふたりは巨大な紅ホオズキのように見えた。まっかに染まった男の顔、女の顔。それが笑っていた。さも楽しげに笑っていた。影男の眼前一尺に近づいて、シネマスコープの大写しになって、赤いよだれをたらしながら狂笑した。赤き血の笑い。赤き血の舞踊。

ふと気づくと、女体のへや全体がゆれうごいていた。影男のよりかかった巨女の臀部も太腿も、生けるがごとくふるえゆらめき、かれは両側の巨大な人肉に締めつけられ、おしつぶされるのではないかと疑った。

突如として、舞台照明さえも、深紅の光に変わった。まっかな中にうす白く見える二つの影が踊り狂った。ふたりの狂笑のデュエットが、へやいっぱいに響きわたった。そして、ついに最後が来た。女が先に倒れ、しばらく物狂わしくうごめいていたが、やがて、動かなくなった。