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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

それまでに、ほかの緊急な用件をすませておいて、からだをあけて待っていると、約束の七時に、良子ともうひとりの娘とが、やって来た。影男の速水は、ふたりをアパートの客間に請じて、対座した。

良子は富裕家庭の有閑令嬢であった。S大学の大学院に籍を置いている二十四歳のインテリ娘だが、ふとしたことから影男の速水と知り合い、かれの崇拝者となり、恋人のひとりとなったもので、戦後型美貌の持ち主であった。

彼女がつれてきた娘は、富豪川波家の小間使いで、まだ二十を越したばかりの、ういういしい、つつましやかな少女であった。ふたりの娘は長イスにかけ、アームチェアの影男と相対した。

「このかた、千代ちゃんていうのよ。川波良斎、ご存じでしょう。あすこの小間使いなの。あたし、あることで知り合いになって、妹のようにかわいがっているのよ。この人、きょうお昼すぎに、あたしのところへ駆けつけてきて、警察へ届けたものでしょうか、どうしましょうって、泣きだすのよ。聞いてみると、あなたの世界だわ。いつもあなたから頼まれている人世の裏側の、とびきりの事件らしいわ。だから、警察へいうのはあとまわしにして、連れてきたのよ。