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かげおとこ
影男
江戸川 乱歩
「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页
と、気ちがい良斎をバカにした。
神が残虐殺人者を罰しているのかもしれない。広い庭園の木立ちに包まれたあき地、空には星もないやみ夜、遠くの常夜灯のほのあかりの中に奇跡がおこったのだ。しかし、気ちがい良斎には神を恐れる心もなかった。妻を奪われたふくしゅうにこりかたまり、恐れを感じている余裕さえないように見えた。かれは昇天する鎌はあきらめて、地上に投げ出してあった第二の武器を取ろうとした。巨大な草刈りばさみを取ろうとした。
すると、不思議、不思議、その草刈りばさみが、また、ひょいひょいとおどりだしたのである。おどりながら、スーッと空中にのぼっていく。
「ちくしょうめ、ちくしょうめ!」
良斎はのろいの叫び声を発した。おどり上がった。草刈りばさみをつかもうとして、気ちがい踊りを踊った。だが、空中の大ばさみは、キラキラ光る二枚の刃をチョキンチョキンと動かしながら、あざ笑っている。空中を左右に浮遊して、いまにも手が届きそうになると、ひょいと飛び上がる。また下がってきて、スーッと昇天する。
気ちがい良斎の気ちがい踊りが、はてしなくつづいた。地上の二つの首も、この不思議な光景を、驚きの目で見つめていた。