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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

篠田青年はそれまで渋谷のアパートに住んで、丸の内の東方鋼業に通勤していたのだが、そのアパートを引きはらって、行く先も告げず移転した。会社も無断でやめてしまった。

良斎の執念深いふくしゅうを避けるためである。覆面の男は、速水荘吉と名のった。あの晩、川波邸から二、三町はなれた町かどに自動車が待っていて、三人でそれに乗りこむと、男は覆面をとり、クッションの下から変装用の大カバンを引き出して、車内でセビロを着た。覆面の怪物がりっぱな青年紳士に早変わりをしたのだ。そして、速水荘吉と名のり、ふたりをひとまず麹町のアパートへ連れていったのだ。

吾嬬町のアパートへ引っ越して一週間ほどたったある日、篠田昌吉がびっこを引いて帰ってきた。友だちをたずねての帰途、建築中のビルの下を通りかかったとき、突然、上から鉄筋の断片が落ちてきて、足先に当たったというのだ。

くつ下を脱いでみると、小指の辺がおそろしくはれ上がって、紫色になっていた。

「ちょっとのちがいで助かった。もしあれが頭に当たっていたら、死んでしまったかもしれない」

「で、それを落とした人は、わからなかったの?」

美与子が尋ねた。