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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

そうすれば、さわっても鼓動は感じない。手首のほうはプラスチックをかぶせるわけにはいかない。これは昔から奇術師のやっている方法を用いた。わきの下にピンポンの玉より少し大きいぐらいの堅いゴム玉をはさんで、腕の内側の動脈にあてがって、グッとしめつけているんだ。そうすると、そこから先の手の脈はとまってしまう。ちょっとのあいだ脈をとめてみせるなんて、わけのないことだよ」

「うーん、そんな手があるとは知らなかった。さすがにきみは『影男』だよ。で、わしがきみの死骸にむしろをかぶせておいて、仲間へ電話をかけているあいだに、きみはのこのこ起き上がって、別のほんものの死体と入れかわったってわけか」

「きみのたくらみは、海の上でピストルを見せあったときからちゃんとわかっていたので、医科大学の実験用の死体のなかから、おれに近い年配、背かっこうのものを盗み出させ、レンガの書斎のそばの木の茂みの中へ隠しておいた。この死体のほうは、ほんとうに顔に傷つけて、血だらけにして、それにおれの服を着せておいたので、きみはうまくごまかされたのだよ」

須原はいよいよ感にたえた顔つきであった。

「きみみたいな奇術師にあっちゃあかなわない。