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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

ここでは、かれは大阪の貿易商社の若い社長鮎沢賢一郎であった。ゆうべおそく大阪から着くと、かれのへやときまっている二間つづきの一室にはいったが、ぐっすり朝ねぼうをして、翌日の昼ごろ起き出して、ゆっくりバスにはいってから、気に入りのボーイに軽い朝食を自室へ持ってこさせ、それを平らげると、あらかじめ呼んでおいたひとりの客を引見した。かれはここでは、呼びよせた客以外には、だれにも会わないことにしていた。

それは二十三、四歳のはでな洋装の美しい女であった。自室の居間のほうに通して、まず長い接吻をしてから、長イスにからだをくっつけて腰かけた。

「上流婦人の秘密結社があるのよ。あなたの趣味にぴったりだし、十万円ぐらいのごほうびの値うちありそうよ」

女の鼻はかわいらしくツンと上向いていた。笑うと左のほおに片えくぼができた。目が愛らしかった。シガレットを気どった手つきでふかしていた。

「詳しく話してごらん」

影男の鮎沢は、女のえくぼを見ながら、微笑してたずねた。

「首領――といっちゃおかしいけれど、その婦人団の団長みたいな人ね、それはもと侯爵夫人で、たいそうお金持ちなの。