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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页

青空文庫

別に厳重な塀がある訳ではなく、押せば開く枝折戸をあけて、不思議なお豊は、雑草の茂るに任せた別荘の庭へと這入って行く。

わしはそれを見届けて置いて、ソッと廻り道をして、庭に連なる森林の、とある大樹の蔭に身を隠し、じっと婆やの様子を見守っていた。

深い森蔭は昼間も薄暗く、どこかで鳴き始めた蝉の声の外には、物音一つせぬ淋しさ。そこに取残された廃屋の庭を、異様な老婆がゴソゴソと歩いて行くのだ。わしはふと何とも云えぬ恐怖に襲われて、真暗な大樹のうしろで、ワナワナと震えていた。

庭の雑草の真中に、一本の紅葉が立っている。お豊はそこへたどりつくと、紅葉の根元にしゃがんで、手を合せ、しきりと何かを拝み始めた。

爪先立てて覗いて見るが、そこには別に礼拝する様なものはない。まさか紅葉の木を拝んでいるのではあるまい。それともこの婆や、気でも違ったのかしらん。

イヤイヤ、そうではない。お豊の頬には涙が流れている。よっぽど悲しいことがあるのだ。それに、あの様子は、どうやら誰かの墓をでも、拝んでいる様に見えるではないか。やっぱりそうだ。あの紅葉の根元に、何か恐ろしい秘密が隠されているのだ。