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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页

青空文庫

「なる程、ボンヤリと、何かのこぼれたあとがありますね。これが血痕ででもあったら、本当の怪談ですね」

住田医学士が独で応対する。姦夫姦婦は云いしれぬ不安に戦いて、口を利く元気もないのだ。

「ところが、どうもこれは血痕らしいのですよ」

わしはズバリと云った。

「エ、エ、血、血ですって」

医師は商売柄にも似げなく驚いて見せる。

「わしはこの家の修理を終ると、秘書の志村に命じて庭の手入れをさせたのです。あれは器用な男で庭のことも少々は心得ているのでね。志村は一人でコツコツ土いじりをやっていましたが、紅葉の木を植え替えようとして、その根元を掘っていた時、実に驚くべき一物を発見したのです。ホラ、あれです。あの紅葉です」

わしは障子を開けて、一同に庭を見せた。そこの中程に、いつかこのわし自身が根元を掘った紅葉の木が立っている。わしが老婢お豊と妙な問答をした場所だ。

「それが何であったと思います。皆さん、びっくりしてはいけませんよ。生れたばかりの赤ん坊の死骸が、小さな木箱に入れて埋めてあったのです。何者かがこの空別荘に忍び込んで死児を産み落したのかも知れません。それとも、生かしては置けない不義の子かなんかで、生れるとすぐ、実の親の手でしめ殺したのかも知れません。