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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页

青空文庫

瑠璃子は何ぜか黙っている。

「僕の伯父は老年のことだから、今度は死ぬに極まっている。すると、さしずめ遺産相続者はこの僕なんだ。僕は余り伯父に好かれていなかったけれど、外に身寄りとてもないものだから、あの頑固親爺も、我を折って、僕を呼び寄せる気になったのだ。遺産は少く見積っても十万円は欠けないだろう。アア、僕は今日の来るのをどれ程か待ちこがれていたことだろう。ね、分ったかい。君は大牟田家のあてがい扶持なんかつき返して、僕の女房になって、どこへでも好き勝手な所へ行けるのだ。サア、約束してくれ給え、僕の妻になると」

ガラス窓をソッと覗いて見ると、川村の奴、上気して、瑠璃子の上にのしかかる様にしている。

瑠璃子はと見ると、案外冷静だ。ツンとすまして眉一つ動かしはせぬ。姦婦めどんな返事をするかと、固唾を呑んで待っていると、やっと口を開いた。

「そんなことをしては、世間に顔向けが出来やしないわ。それに、あたし、あんたのお嫁さんになる気なんて少しもないのよ。あんたは恋人。可愛い色男。ね、それで沢山じゃなくって。なにも今更結婚なんかしなくっても」

川村の情熱に水を注ぐ冷い答えだ。