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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页

青空文庫

そこで、川村は心を残して大阪に出発し、一月ばかりというもの、手紙の外には彼の消息を断った訳であるが、彼の留守中わしの復讐計画は、一人ぼっちになった姦婦瑠璃子に対して、着々と進められて行った。

わしは毎日の様に彼女を訪ねた。瑠璃子の方でも、わしのホテルを訪ねて来た。外見では親子程も年の違うこの二人の男女は、段々親しみを増して行った。

ある日のこと、わしのホテルの私室のソファに並んで、瑠璃子と話していた時、わしは何気なく川村のことを云い出した。

「川村君から、伯父さんの寿命も、もう長くはないと云って来ましたよ。あの人も一躍お金持になる訳ですね」

すると、瑠璃子は眉をしかめて、

「マア、いやでございますわねえ、そんな不人情なことを」

と如何にも人情家らしいことを云う。

「併し、それがあなたとの婚資になるのではありませんか。川村君も大変喜んでいましたよ」

「マア」

瑠璃子はさも意外だと云わぬばかりに、あきれて見せて、

「婚資でございますって? 川村さんがそんなこと申しましたの? いやですわ、あたし」

と、キッパリ否定する。

「エッ、それじゃ、あなたは同意なすった訳ではないのですか」