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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页

青空文庫

彼の叫び声には、何かしらゾッとする様な調子があった。

「誰でもない。わしだよ。君が殺そうとして訪ねて来た里見重之だよ」

わしが答えると、川村は何か疑わしげに、

「アア、そうだ。貴様だ。貴様に違いない。だが、貴様は俺をなぜこんな目に合わせるのだ。何の恨みがあるのだ」

と聞返した。

「妻を盗まれた恨みがあるのだ」

「アア、貴様はさい前も、何かそんなことを云っていたね。だが、盗もうにも、君には妻なんてない筈じゃないか」

「妻を盗まれた上に、わしは君に殺された恨みがあるのだ」

「何だって? 何だって?」

「殺された上に、出るに出られぬ地底の墓穴に埋められた恨みがあるのだ。何ぜといって、わしはその地獄の暗闇で甦ったからだ」

「ウー、待て。貴様何を寝言を云っているのだ。それは何のことだ。アア、夢を見ているんだ。俺はうなされているんだ。止せ。分った。もういい」

彼は両手で髪の毛を掴みながら、悪夢から醒めようともがいた。だが、夢ではないものが醒める道理はない。

「待ってくれ。やっぱり貴様そこにいるのか。顔を見せてくれ。サア、貴様の顔を見せてくれ。俺は気が違い相だ」

「わしの顔が見たければ、ここへ来るがいい。