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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页

青空文庫

死刑室

彼はその場へ坐り込んでしまった。最早立っている気力もなかったのだ。

死刑室

永い沈黙が続いた。

川村は恐怖の余り、薄暗い狭いコンクリートの壁の中に、気を失った様にくずおれていた。覗いて見ると、彼の顔はしなびた様になり、身体全体が子供みたいに小さく、哀れに見えた。

だが、わしの根深い恨みは、この位のことではれるものではない。わしの復讐はまだまだ終ってはいないのだ。

わしは川村が失神しているのではないことを確め、覗き穴から、彼に話しかけた。墓穴の中で甦って以来の、悲しみ、恨み、苦しみ、悶えの数々を、残りなく語って聞かせた。

川村は無論聞いていたに違いない。併し彼は何の反応をも示さなかった。彼にはもう、わしの奇怪な物語に驚く余力がなかったのだ。どんな刺戟も、最早刺戟ではなかったのだ。

「わしは全く別人となって、仇敵瑠璃子と再び結婚する所まで漕ぎつけた。あと十日余りで、わしはあれの花婿となるのだ。川村君、この結婚を君はどう思うね。ただ、わしが君を絶望のどん底へつき落す手段に過ぎなかったとでも考えるのかね。若しそうだとすれば、君は余りにお人好しというものだ。わしはね、あの売女に復讐する為に結婚するのだぜ。