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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页

青空文庫

川村のこの苦しみも、わしが受けた大苦悶に比べては、寧ろ少きに失する程なのだ。「目には目を、歯には歯を」これがわしの動かし難き信念であった。

「川村君、聞き給え、わしの考えが分るかね。この奇妙なカラクリを作った意味が分るかね。君は、コンクリートの下敷きになって、一枚の煎餅と変るのだ。そして、君の喉笛には、同じ様に煎餅になった赤ん坊の骸骨が、執念深くからみつくのだ。その恐ろしい親子煎餅をね、あいつに、その赤ん坊を産んだ女に、見せてやるのだ。あいつはどんな顔をして驚くだろう。わしはその顔を見るのが今から楽しみだよ。ハハハハハハハ」

わしは自身気でも違った様に、云いたいことをわめき散らした。

川村の苦悶は長かった。天井が床に密着するまでには、たっぷり一時間はかかるのだ。その間彼は、虫の這う様に遅々として下って来る天井を支えながら、徐々に腰をかがめ、次には坐り、次には蹲り、遂に横臥して、目を圧する大磐石に、とじこめられ、骨をしめぎにかけられるまで、何等の施すべき手段もなく、泣きわめきながら、空しく待っていなければならなかった。アア斯くの如き大苦痛を味った人間が、嘗てあったであろうか。