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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页

青空文庫

「ハテナ、その外にお前が見たいものなんて、一寸想像が出来ないね。云ってごらん。何も遠慮することなんかありゃしない」

「あのう……」

「ウンなに?」

「あなたのお顔が見たいのよ」

瑠璃子は思い切った様に云った。

「エ、わしの顔? なにを云っているんだ。わしの顔はこうしてちゃんと見ているじゃないか」

「でも、……」

「でも?」

「あなたはいつも、そんな大きな色眼鏡をかけていらっしゃるのですもの」

「アア、そうか、お前はわしの目が見たいと云うのだね」

「エエ、一度その眼鏡をはずして、あなたのお目をよく見たいのよ。何だか変ですわ。妻が夫の目を見たことがないなんて」

瑠璃子は遠慮勝ちに尋ねた。彼女は何かしら不安を感じている様子だ。

「ハハハ……、この眼鏡かね。これは滅多なことでは脱さないのだよ。例えば婚礼とか臨終とか、そんな風な一生涯の大事の場合の外はね。わしは熱帯地方の烈しい日光の為に目を痛めて以来、医者からお日さまを見ることをかたく禁じられているのだよ」

わしは眼鏡の奥で目を細くして答えたものだ。

「それじゃ、今おはずしなさってもいいじゃありませんか。今日はその婚礼の前日なんですもの」