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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页

青空文庫

瑠璃子の意識下に押しつぶされて、小さくなっていた亡夫の怨霊が、忽ち巨大なお化けとなって、彼女の心一杯にふくれ上った。過去の罪業が、海坊主の様な恐ろしい姿で、彼女を脅かした。そして流石の妖婦瑠璃子も、このはれの場所で、不覚にも気を失う羽目とはなったのだ。

実に奇妙な光景であった。

白髪白髯の花婿が、気絶した白鳥の様な花嫁を抱きかかえて、祭壇の前に立ちはだかっていたのだ。高い窓のステインド・グラスから鈍い五色の光が瀕死の白鳥の上に、奇怪なスポット・ライトを投げていた。わしのうしろには、狼狽した老牧師の顔があった。その又うしろには沢山の蝋燭が、薄暗い祭壇を背景にして、血の様な色で燃えていた。

それからの騒ぎは、管々しく申上げる迄もない。気絶した瑠璃子は、介添えの人々によって、会堂からわしの新居へと運ばれた。つい申し忘れたが、結婚の話が極まった頃、わしはさる外国人の邸宅を譲受けた。それに充分手入れをした上、数日前、ホテルを引払って、そこへ移り住んでいたのだ。

瑠璃子は、わしの新居のベッドの中で目を覚した。駈けつけた医者の手当を受けるまでもなく正気に返った。