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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页

青空文庫

その最後の棺が、わしの救主であった。

わしは棺の蓋をこじ開けた。イヤ、こじ開けたのではない。この棺丈けは、不思議なことに燭台の先を、ちょっと当てたばかりで、釘が打ってないのかと思う程、手答えもなく、易々と開いた。わしはどうせ骸骨に極っているとあきらめ果てた気持で、片手を中にさし入れ、探り廻して見た。

ところが、いくらなで廻しても、どうした訳か、中には何もないのだ、骸骨は勿論、棺の底さえガランドウで、どこまで行っても手先にぶつかる物がないのだ。

わしはギョッとして、思わず手を抜き出すと、そのままじっと身をすくめていた。この棺には確に底がないのだ。底がないばかりか、その下に漆喰の床も、土さえもないのだ。気がつくと、棺の上によりかかったわしの顔へ、下の方から、冷い風がソヨソヨと吹き上って来る。

思考力の衰えていたわしは、急にはその意味を悟ることが出来なかった。棺の底がなくて、下から風が吹いて来るという、不思議千万な事実が、わしを怖がらせた。若しや、本当に気が違って、こんな不合理な錯覚を感じるのではあるまいかと、我身が恐ろしくなった。

だが、間もなくチラッとわしの頭に閃いたものがある。