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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页

青空文庫

嬉しさに、何かしら怒鳴らないではいられなかったのだ。神様許して下さい。墓穴の中で、あなたを呪ったわたしの罪を許して下さい。神様はやっぱりわたしを見守って下さったのだ。オオ、神様、わたしはあなたに、何と云ってお礼を申し上げたらよいのでしょう。

サアこうなると一刻も早く瑠璃子の顔が見たい。あれはわしが生き返ったのを見て、どんな顔をするだろう。いつもの笑顔を十倍も嬉しそうにくずして、いきなりわしの胸へ飛びついて来るに違いない。そして、わしの頸を両手でしっかりしめつけて、嬉し泣きに泣き出すことだろう。それを思うとわしはもう、胸がワクワクして来るのだ。

併し待てよ。まさかこの身なりでも帰れまい。町の古着屋で兎も角着物を着換えて行くことにしよう。それから食事だ。邸に帰るなり妻の前でガツガツ飯を食うのも、極りが悪い。服装をととのえた上、どこか場末の小料理屋でコッソリ腹を拵えて帰ることにしよう。

妻に何遠慮があろう。経帷子で帰るのが世間体が悪ければ、使をやって、妻に着物を持って迎えに来させればよいではないか。みなさんはそうお考えなさるかも知れぬ。理窟はそれに違いない。