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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页

青空文庫

白髪の老人が、あの縞柄を地味だと不平を云ったかと思うと、わしは気恥かしくなって、泣き出し度い様な気持で答えた。

主人から古袷を受取って、経帷子の上に重ね、序に帯も一本出して貰って、それを締めると、わしはもう一度鏡の前に立った。まるで刑務所から放免されて、差入れ屋で着換えをしたという恰好だ。アア、この姿では、どんな親しい友達だって、わしを大牟田子爵と思うものはあるまい。川村でも、妻の瑠璃子さえも、よもやこの老人がわしだとは見破り得まい。

わしはふと試して見る気になって、老主人に尋ねた。

「お前さん、大牟田子爵をご存じかね」

すると老人は、やっぱり以前のわしを知っていたと見え、

「知らないでどうしましょう。元の殿様の若様ですからね。大変評判のよい方でしたが、惜いことをしました」

と答えた。

「惜いことと云って、どうかなすったのかね」

わしは何食わぬ顔で尋ねて見た。

「地獄岩から落ちて、おなくなりなすったのですよ。あなたは他国の方と見えますね。それとも新聞をごらんなさらないのですか。それは大変な騒ぎでしたよ」

「ヘエ、そうかね。で、そのなくなられたのは、いつのことだね」