轻松读懂日语经典作品
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はくはつき
白髪鬼
江戸川 乱歩
「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页
里見重之には兄弟もなく、その家は跡が絶えて、位牌などもわしの家の仏壇に飾ってあった程だから、生きていて帰って来たといっても、誰一人怪しむものはない訳だ。
ホテルの部屋が極まると、先ず第一に上海一と言われる洋服裁縫師を呼び寄せて、数着の贅沢な着替えを註文した。それから鞄に一杯の大金を銀行に持参して、里見重之の名で預け入れた。
さてこれからは、わしの姿を変える仕事だ。わしの容貌や声音から、大牟田敏清の影を完全に追い出してしまう仕事だ。
無論わしは昔日の大牟田敏清ではない。いつか古着屋の親爺が、わしを前に置いて、他人のことの様にわしの噂をしたのでも分る様に、変り果てた白髪の老人だ。のみならず、わしは已に死亡して、葬式まで行われた人間だ。誰もわしを大牟田子爵のなれの果てと疑うものはないかも知れぬ。
併しそれは、一般世人に対してのこと。我妻瑠璃子、我親友川村義雄をあざむくには、用心の上にも用心をしなければならぬ。彼等の心に少しでも疑いを起させては、折角のはかりごとも水の泡だ。
そこでわしは、頬から顎にかけての特徴を隠す為に、口髭と顎髯をのばすことにした。髭も頭程ではないが、殆ど白くなっていたので、それをのばせば、わしの健康が恢復して、顔の肉づきがよくなったとしても、まず見破られる気遣いはない。