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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页

青空文庫

ただ少々不満であったのは、当の瑠璃子から何の反響もないことだが、こちらから手紙をやった訳ではないのだから、新聞記事を読んでも例の負け嫌いで、態とそしらぬ振りをしているのかも知れない。それとも、川村との逢う瀬に忙しくて、新聞に目を通す暇さえないのであろうか。

だが、そんなことはどちらでもよい。瑠璃子から挨拶状がこないからといって、わしの計画には何の影響もないことだ。

さて準備はすっかり整った。愈々明日にもこの地を出発しようかと思っている所へ、実に意外な事件が降って湧いた。

午後のことであったが、お茶を持って来た給仕が何か非常に昂奮した様子で、

「旦那大変です」

というのだ。

わしは例の口調で少しも驚かず、

「騒々しいじゃないか。大変とはどうしたのだ」

と聞返した。

「この先の公園で、海賊が捕われたのです。大変な騒ぎです」

「ハハハハハ、賊が捕われるのは当り前の話だ。わしはそんなものに興味はない」

「イイエ、それが大変な賊なのです。旦那もご存知でしょう、ホラ例の有名な朱凌谿が捕まったのです」

朱凌谿と聞くと、流石にわしもびっくりした。今ではこの大賊とわしとは、満更ら他人でないのだ。