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はくはつき
白髪鬼
江戸川 乱歩
「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页
殊にその妻のルイズという女が、あだし男をはねつけて、夫に殉じて自害したというのは、何と見上げた心持であろう。見れば山田という男は、朱凌谿に比べて年も若く、のっぺりとした美男子であったが、若し賊の妻がルイズでなくて、瑠璃子であったらどうだろう。果してこの様な見上げた振舞が出来たであろうか。と思うと、わしは何とも云えぬいやあな気持になった。そして、あのいまわしい姦夫姦婦の俤が、憎々しくわしの頭に浮上った。
それはさて置き、賊が罵ったのは山田という手下であったことは分ったが、その前に「お前の姿は俺にも見破れぬ」と感心したのは、山田ではなくて、確にわしのことであった。此上また賊から何か云いかけられては困る。早く立去るに越したことはないと、朱凌谿の方を眺めたところが、賊の目は又わしの顔に釘着けになっていることが分った。しかも、何か物云いたげに、しきりと目配せをしているではないか。
エエ、いっそのこと、大胆にわしの方から賊に近づいてやれ。そうした方が却て警官達の疑いをはらすことが出来ようと、わしは、ポケットから四五枚の紙幣を取出して、ソッと警官に握らせ、習い覚た簡単な支那語と手真似とで、少しこの男と話をさせてくれと頼んで見た。