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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

私がこれから有明荘へ行くと、唯一人の証人であるお馬という小使婆は、訓令に従って規定通りの証言をするでしょうし、多分現場にも何の手懸りも残ってはいますまい」

「と決まっているなら、何もわざわざ有明荘へ行く必要もない」

真名古は冷淡に遮り、

「差出がましい口をききなさるな。私は警視庁に勤務する官吏だから、官吏服務規律にある通り、どこまでも訓令に従わねばなりません。私の受けた訓令というのは有明荘へ行ってお馬という小使婆に逢い、この事件が自殺であるという証拠を捜して来ることです。私は勿論それに従う。……が、それ以外の捜査は私の自由です。訓令通りの調査を終えると、私は捜査課長として訓令に制肘されぬ厳重な調査を開始します。勿論、皇帝も訊問します。私の職掌としてもかくするが当然で、然もこれは私の良心に従って致す行動だから、あなた如き禿げ頭がどれほど弁舌をふるっても所詮無駄です。見損っちゃいけません。検察に携わる官憲は、あなたが舐めてかかるような精神の低いものばかりだと思ったら大変な間違いですぞ。あなたとの会話はこれでお断りします」

と言って立上る。林も曳かれるように椅子を離れると、おしつけるような声で、