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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

それはまだいいが、あなたも御承知でしょう、川俣踏絵たらいうダンサーが筋向いにいるんですが、それがねエ、あなた、厭らしいじゃありませんか、毎晩のようにやってきちゃ夫婦のように一つ床で寝るんです。あんなのってあるもんでしょうか、妾ァ話にも聞いたことがない」

といっているところへ露地の入口に野太い幸田の声がし、続いてカラカラと玄関の開く音。腰を浮かしたとめに悦子は、

「まアいいじゃないの、逃げるようにしなくても。今日はどうせドンタクだろう。ならゆっくりしていって今のつづきをお聞かせな」

といってスルリと立つと、帯に後ろ手をやりながら玄関の方へ行く。入って来たのは幸田と酒月の二人。どういう風に刑事を撒いたのか一向平気な顔つき。幸田は田舎相撲のように小肥りした身体を揺がせながら長火鉢の向うへ押し通り、大きな座蒲団の上に地響きを立てて胡坐をかくと、下から酒月の顔を見上げ、

「おい、酒月」

と唸るように呼びかける。酒月は足で座蒲団を掻き寄せると、それを枕にしてゴロリと仰向けに寝っ転がり、

「ウム、俺も驚いた」

といいながらマジマジと天井を見上げている。幸田はモーニングのズボンの上に片肱を立て、