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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

とすればすでにその大決心をしているのかも知れぬ。睡そうに垂れた瞼の間から一種凄然たる光が洩れ出すのを見ても、何か不屈な決心を胸底に蔵しているように見える。しかし真名古は退け者にされた鬱憤を、こんな方法で復讐しようとしているのだと考えるのは真名古に対して気の毒である。真名古は陰険だが卑怯な男ではない。その上極めて老成沈着な性だから、そんな子供じみたことを企てる筈はない。真名古はこうすることが検察官たる己れの義務だと率直に感じたのである。

さて真名古課長が有明荘に行きついて見ると、早や何事もなかったように商人が活発に出入している。巡査や刑事の姿も見えない。

入口を右に折れて、突当りの玄関番の部屋の戸を開けると、五十ばかりの人の悪そうな婆が上り口に這い出して来た。第一回において、奥の部屋にいるのが宗皇帝だと刑事らに告げ口をした、あのお節介なお馬婆である。金壺眼のしゃくったような下等な面構え。引詰に結っているので妙な工合に眼が釣るし上り、一層意地悪そうに見える。元来すぐ人を甘く見る性だから、校長の古手のような、余りパッとしない真名古の風采を見ると、たちまち舐めてかかって、