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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

「おやおやまたお調べですか、助からないねえ」

なんて吐かす。真名古は上り端へ腰をおろすと湿った調子で、

「お馬というのはお前か」

と訊問を始める。お馬はそっぽを向いたまま、

「はい、さいです」

「ここでどんな役をしているね」

「まア、こうして玄関におりますのと、それから皆さんのこまごました用事も致します。はい、それだけでございす」

「昨夜王様が来られた時、だれか連れのあるような模様はなかったか」

「おや、王様ってだれのことでしょう。本名なら判りますが」

「日本名を宗方竜太郎といっていられる方だ」

「宗方さんならば昨夜はおいでになりませんでした。そりゃもうたしかなんでございす」

「間違いはないね」

「ええもう」

真名古は依然として瞼を垂れたまま、

「なかなか口が固いな。感心だ。誰が訊ねてもそういう風にいうがいい。……それで、あの玄関の扉はどういう風にして開けるのか」

「それを聞いて何になさるんです」

「訊いた事に返事をしろ」

お馬は面を膨らして、

「御銘々が合鍵で開ける事になっています」

「閉める時は」

「押すとひとりでに閉まるようになっております」

「出入口はあれだけなのか」

「御用聞が上り下りする裏梯子がありますが、出入はみなあそこから致します。