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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
第六回
十七、蛇の道は蛇の事 並に二悪人感違いの事
「真名古君!」
といった。真名古は微かに頷いた。
明日の午前四時までにどんな事があっても皇帝をホテルへ帰して置かねばならぬ。ああ、十二時間!
第六回
十七、蛇の道は蛇の事
並に二悪人感違いの事
赤坂新町なる「夕陽新聞」幸田節三の妾宅。茶の間の長火鉢に烏賊鍋かなんかをひっかけて独り泡盛の盃を舐めている、四十五六の痩せた、見るからに険相な人物はすでに各位辱知の酒月守である。
公園園丁長などは世を忍ぶ仮り姿で、ひと皮剥げば樺太庁警察部の要視察人。さんざ本州を喰いつめた末樺太へ押し渡って空拳師になり、血眼の利権屋の上前を刎ねて甘い汁を吸っていたが、昭和五年の官有林盗伐事件に引っかかり、アワヤというところを危うく体を躱して東京へ逃げ戻り、こんな姿でホトボリをさましているうち、娘の悦子が取りもつ縁となって幸田に結びつき、そこで書き下したのが例の「唄う鶴の噴水」の一曲。
鳴く筈もない青銅の鶴が鳴いたのにはいずれ何か深い仔細のあることであろうが、それは天に誓って酒月、幸田の与り知らぬところである。といったところで、警視庁に眼と鼻の日比谷公園で図太い野天詐欺を働いて、これがただですむわけはなく、刑事に追われて死物狂いに逃げ廻り、ようやくこの巣まで落ち延びたものの、さすがの幸田もすでに危うく見えた。