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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

二十、間違いつづきの事 並に明石町の夕景の事

眼つきの卑し気なのは致し方ないとしても、それを除くとほぼ皇帝に似ている。加十は鏡に向ってためつすがめつした後、公園の西門で待ち合わせることに手筈をきめると、顔見知りの私服たちを尻眼にかけて悠々と玄関を立出で、秦の始皇帝のような黒髯を風に靡かせながら日比谷公園の方へ歩いて行った。これから噴水の鶴を調べに行こうというのである。

二十、間違いつづきの事

並に明石町の夕景の事

築地明石町、「住吉」の奥まった座敷。応挙の「蓬莱山図」と葉牡丹を根〆にした大きな苔松を背景にして、林謹直、道灌山前田組の大親分、それに林の家の子郎党が五人ばかり。ここもまた腕を組み眉を顰めたむずかしい風景。さっき、伝次を幸田の妾宅へ差向けると間もなく警保局から皇帝失踪の報知を受け、かくは寄り寄り対策協議中なのである。

林が皇帝に取入って安南で先取した優良ボーキサイトの採掘権。それを資本・構成をほぼ等しくする好敵手、小口の日興コンツェルンがなんとかして林の手から取上げようと、皇帝反対派、すなわち、皇甥擁立派を突ついて盛んに暗躍している最中だから、それは何かためにするところある日興の仕業ではないかという疑念は、誰の胸にもすぐ浮かぶのである。