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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
二十三、仇な取引の事 並に名妓手練の事
……どうも大へんな意気込みだ。総監、あなたには滑稽に聞こえるかも知りませんが、私は私で、もう犯人の襟首をひッ掴んだつもりでいる。私の執念深いのはあなたも御存知でしょう。一度掴まえたら首が千切れたって放しはしません」
というと、眼にも見えぬほど唇の端を皺ませた。
これが真名古の微笑なんです。苦笑だといってもよろしければ、得意の微笑だと思って頂いてもよろしい。それは見る方の勝手だとして、真名古はそういう顔面運動をして置いて右手を上衣のポケットに差し込むと、
「つい後先になってしまいましたが、私が鶴子の衣裳戸棚の曳出しからどんなものを発見したか、まだ申し上げておりませんでした。……実はそれは、取るにも足らぬような、こんなものだったのです」
といいながら、例の獅子頭のついた薔薇根のシガアレット・ホルダーを取り出し、庁内で誰一人知らぬものはない総監愛用のこのちっちゃな品物をテーブルの上へ差置くと、鄭重に一礼したのち、静かに扉を開けて出て行った。
二十三、仇な取引の事
並に名妓手練の事
御神燈に門松の影。めまぐるしいばかりの座敷着の往来。箱丁のパッチが、汗を拭き拭き、亥歳にちなんで盲目滅法に飛んで行く、まだ宵の口の金春町。