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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
「さあ、ころべ」
印東はニヤリと唇を引歪めて、
「ついでにワンといいましょうか。……ダイヤモンドは山木が持ってるんです」
「おい、印東さん、それだけで一万両か」
「慌てなさんな、まだ後がある。……なぜ山木がダイヤモンドを持っているかといえば……」
ジロリと一座を見廻し、
「それァ、山木が王様を殺ったからさ。……さあ、一万円ちょうだい。筋はこれから話してあげます」
一座はゾクッとしたような顔で眼を見合せ、さすがに声を発するものもない。やがて、志摩徳は無言のまま小切手を印東の前へ押しやると、印東は手早くそれを取上げて、
「有難う」
といいながらポケットに収い込み、
「……話というのはこういう次第なんです。……昨夜、笑子の酒場でわれわれ六人が有明荘の忘年会をやり、「カーマス・ショオ」のバロンセリがぜひ口明けをしてくれというんで、われわれ六人とショウの六人とひッつるんで「巴里」を出たのが午前三時ごろ。そこからまっすぐに小田原町の「すず本」に乗りつけ、みんな顔が揃ったところで薄茶を飲んでお開きということになった。これが三時二十分ごろ。……あたしの部屋は備前堀の側の庭に向いた端っこで、築地の塀一つですぐ通りになる。