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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
聞きようによればどこかで地虫が鳴いているような、そんな仄かな音である。真名古は悒然たる面持で立ち上ると、ちょっとといってゆっくりした足どりで部屋を出て行ったが、五分ほどするとまた戻って来て、花と向き合って掛けると、
「どうだね、何かも一つ読んでやろうか」
といって本を取り上げる。
「今度のは「雀」の話よりもう少し面白いかもしれない、よく聞いてなさい」
ゆっくりとページを返しながら、真名古はまた朗読し始める。
「これは「呪咀」という題だ。では、読む。……ある娘が呪い殺した女の霊が、ある晩、その娘の部屋へよろめき出て来た、そして、こんなようにいった……」
真名古はひどく出鱈目なことをいっている。
ツルゲネーフの原文はそんなふうにはなっていない。
(バイロンの「マンフレッド」を読んで、かれのために身を亡した女の霊が不気味な呪咀を吐きかけるところに来ると……)
と、こういうふうにはじまるのである。それを、真名古は続いてこんな具合にやる。
「お前はわたしを呪った。この世で呪われた人間は、その復讐を遂げるまでは転生することはできないのだ。お前はわたしを呪ったばかりではなく、窓から突き落してわたしを殺した。