轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

いわんや、ツルゲネーフの散文詩などひねくるところを見たら、あまりの並外れに開いた口が塞がらぬ思いをしたであろう。ふだんの真名古は決してこんな生優しい男ではない。断じてフェミニストではない。紳士は紳士でも、必要があれば他人の指の股に鉛筆を挾むくらいのことは平気でしかねない紳士なのである。それが散文詩……、これが恋愛の象徴でなくして何だというんです。この点花子も不思議に思ったとみえ、「どうしてわたしにこんなに優しくして下さるのですか」と際どいところを突かれ、それに対して真名古は何ともいえぬ苦っぽろい笑いをもって答えた。そればかりではない、あの朗読の抑揚の美しさは! まるで人の心を夢の中へ誘い込むような……、つまり、恋する男の声だったのである。えらいことになったもんだ。

果せるかな、真名古は四銃士の一人が課長室から出て行くと、何とも形容の出来ぬ面持で腕組をしたまま、椅子の上に固まってしまった。苦悩の色がありありと頬に射しかけ、双の瞼はさながら祷るが如く、低く垂れ下る。銃士の一人がスイッチを入れて行ったと見え、壁の上に口を開けた拡声器からは、東京市郡全体の、戦争のような捜査の行進状態が、狂い出した鸚鵡のような疳高い声で絶え間もなく報告される。