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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
現に真名古の靴跡などは、ちょうど灰の中に靴を踏み込んだように二寸ほど土の中にめり込んでしまった。隈なくそのあたりを探してみたが、足跡らしいものは一つもない。十二月二十七日以来東京には降雨がなく、また風も吹かない。四銃士の一人が、庭の方からは絶対に人が抜け出した跡がないと調査の結果を述べたのは、この器質的な条件のことをいったのである。印東の隣りの部屋はその夜客がなく、一つおいた奥の部屋に村雲笑子とサクソフォーン吹きのウイルソンというのがいた。その方の庭先も調べてみたが、ここにも足跡らしいものは一つも見当らない。少し後先になるが、では玄関の方はどうかといえば、(これは後で訊問したのだが、)定という女中が不寝番の役になって、臨検のあった五時まで帳場の六畳に坐って、朋輩の千代と南京豆を喰べながら無駄話をしていた。六時になったら水天宮様へ二人で初詣をするつもりだったので、結いたての髪を気にしいしい、二人共に横になるどころの段ではなかったのである。玄関から表へ出ようとすると、どんなことがあってもこの二人の目に触れずに通り抜けることは出来ない。真名古はまた二階へ取って返す。