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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
むしろこんな場所には極めて有り勝ちなものである。廻りくどいことをいうのをよして簡単にいえば、それは瓢竹斎の竹籠に※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)された白梅の投入である。根締に水仙が使ってある。これでは何の奇もない筈であるのに、真名古はそれに目をとめると、急に目付を鋭くしてシゲシゲと眺める。よく見ると、なるほどすこし変ったところがある。見るところ双月流の投入と思われるのだが、これが後ろ向きに置かれているのである。どんな心得のない人間だって、いや、これほどに※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)ける心得があるならこんな馬鹿な置き方をするやつはない。正当の位置より四分の一回転ほど後ろ向になっている。真名古は女将に、
「あれから誰かこの部屋へ入ったか」
と訊く。入ってはならんというお達しで、垣覗きも致しませんという返事である。図を書いて示すと早いが、口でもいえないことはない。その竹籠は真中の蔀と右端の蔀との合せ目に置いてある。真名古は妙な実験を始める。竹籠を四分の一廻転だけ元へ戻して、つまりふつうに眺められるような位置に竹籠を据えなおしておいて、地袋の上へあがって窓から屋根の棟へ出ようとする。