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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

の通信員ジョン・ハッチソン。

印東の方はドーラン化粧の上に汗さえ浮かせ、精根限り駆けずり廻ったあとのように肩で大息をしている。折角の引眉毛が眼尻の方へ八の字に流れ、ギリシャ劇の悲劇の仮面のような莫迦々々しい面になっている。

ハッチソンの方は、この一日でまるで人が違ってしまったような刺々しい顔になり、窪んだ眼の周囲に鳴神の隈のようなものが出来、日ごろでさえ凄味のある面を一層検相にしている。手ッ取り早くいえば、たった今人でも殺して来たかのように、見るものをゾックリとさせるような凄惨極まるようすをしているのだ。

あちらからも此方からも湧き立つような景気のいい太鼓の音がきこえて来るのだが、この座敷ばかりは陰々滅々、無言のままで差しつおさえつしながら探り合うように互いに顔を偸み視る。

こういう深刻な無言劇が永久に続くかと思われたころ、印東はひきつったような笑い方をしながら唐突に口を開き、

「……帆に風、という諺がありますが、こう蛇の道へびでも恐れいる。こういう騒ぎになりますと、この家だけが唯一無二の隠場。……自分じゃたいへんにいい智慧のつもりで駆け込んでみると、あにはからんや、旦那が来ていらっしゃるんだから、上には上があるもんだと思って、あたし、つくづくと感じいりましたわ。