轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
三十二、歯固めのお式の事 並に意外なる口説の事
今日の暁け方、鶴子の家の食堂へ刺客を置き去りにして、うまく勝手口からぬけ出したまでは覚えているが、それ以後のことはどうも正確に思い出すことは出来ない。
熱病のような悪性のねむりの中で、時々ぼんやり眼をあけると、自分の周りにはいつも陰々たる闇ばかりがあった。この半生を通じてあんな恐ろしい闇にぶつかったことはない。いまにも自分の肉体が圧し潰されてしまいはせぬかと思われるような、ひどい圧力を持った闇だった。自分の手がどこにあるのか、顔がどこにあるのか、はっきりと測量することが出来ない。自分の肉体は闇の中に溶け込んでしまって、魂だけで寝ころんでいるような気がする。この恐ろしい混沌の中から逃げ出そうと必死になって這いずり廻ると、自分の掌に苔のようなものや爬虫類の肌のようなヌルヌルしたものがまつわりつき、思わずゾッと身の毛を逆立たせる。何とも形容の出来ぬあの不愉快な感触は、いまもマザマザと記憶に甦ってくるのだが、掌を検めて見ても、格別汚れたところもないのだから、やはり夢だったのだと思うほかはない。
枕元の置時計を見ると八時を指したところで停っている。八時ということはないだろう。