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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
この際それが一縷の望みなのだが、それとても実にはかない安心。今にもその恐るべき報告が齎されるかも知れぬ。政府の命はまさに風前の灯。両大臣初め局長に至るまで、一同ことごとく緊張に疲れ、いささかやけっぱちになってフンゾリ返っているというのも、またやむを得ぬ次第であった。
さて、諄いようだが、光陰矢の如く、時刻は刻々に移って大時計の鳴鐘はガアンと無慈悲の音をたてて、一時半を報じた。
今まで椅子の中に沈み込んで鞴のような息づかいをしていた外務大臣は、跳ねッ返るように椅子から立ち上り、ネクタイを引きむしってそれをテーブルの上に叩きつけ、
「畜生、息がつまりそうだ。一体いつまで待っていれば埓があくというんだ。……おい、内務大臣、日本の警察はこんな不甲斐のないもんだったのか。警視総監はどうした。もう早寝でもしてしまったのか。警保局長はどうした。二時間前に飛び出して行ったきり、膿んだものが潰れたともいって来ないじゃないか。一体どうなったんだ。捜査はどんなふうに進んでいるんだ。見給え。もう間もなく二時だ。泣いても喚いても汽車は刻一刻東京へ近づいて来る。諸君、この事実をどうするんだ」