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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

こういうのを運命の諧謔というのであろう。たった今、自分が立っていたちょうど真下の地下で、かの愛嬌ある田舎者、夕陽新聞雑報記者古市加十が、古今未曽有の情況の中で異様なる活躍をつづけていたのである。

第九回で述べたように、芝田村町からこの日比谷一帯へかけた地下には、徳川時代の神田、玉川二上水の大伏樋の分樋が相交錯しながら縦横に走っている。

明治の中期に水道が敷設されると同時にこの伏樋は廃棄され、少数の土木学者を除くほか、今ではそんなものがあることさえ知っているものはないが、廃棄された大伏樋はそのまま地下の暗道となり、延々十数里、さながら蜘蛛の巣のように東京の地下を這い廻っている。

元来この伏樋の工事は、一定の方針の下に施されたのではなく、必要に応じて次々に増設されたのだから、分樋ははなはだ無秩序に放射され、かのクレエト島の迷宮にもゆめゆめ劣らぬ複雑多岐な大迷路を作り上げている。一旦この中へ入ったら、再び地上に出ることは到底不可能であろう。

つまり、加十は魔都「東京」を形成する都市機構のうちで最も怪奇な場所にいるのである。手提電燈の光の中に浮き上った風景は、入口も出口もない真四角な古井戸の底のようなところで、広さは畳数にして、四畳ほどもあろうか、周囲は壊えのある大谷石で畳まれ、隙間なく生えた青苔の上を、おびただしい