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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
仮りに加十がこの事件をスクープすることが出来たとすれば何んとそれは目覚しいことであるか。日ごろ加十を軽蔑してあるかなしかの取扱いをする朝日や日々の奴等を茫然自失させることが出来るのである。そして夕陽新聞の古市加十の名は一躍して斯界に轟きわたるのである。と思うだに胸が躍る。
加十は一種昂然たる面持で、
「よしよし、このネタだけはどんなことがあってもモノにして見せる。俺が安南王と一緒に押し廻った事実を洩らせば俺は釈放されるだろうが、そうすると俺が書く前にかけ代えのないこのネタを残らずほかの奴等に引っ攫われてしまわなければならぬ。それではなんにもならン。今のところ情況は甚だ不利だが、天網恢々で何も俺がジタバタしなくても何れ犯人は宗皇帝だということが判り、俺の無罪が証明されて無事に釈放されるに違いない。よし、俺の口からは決して宗皇帝のことは洩らすまい。また俺の身分も言うまい。そのためにたとえ一ト月が二タ月未決に繋がれたって恐れることじゃない。一つ胆太くドッシリと腰を据えてこの事件のどん詰りまで見物してやろう。それにしても、俺をいつまでもこんなところに置いておく筈はないから間もなく訊問が始まるだろうが、その時は向うの出よう一つでなるたけ向うの思う壺にはまるような返答をしてやろう。